●はじめに
 本文は、日向 楓を主人公に、Sin四章中の一部分を題材にした
 二次創作小説です。
 作者の独断と偏見による脚色により、各キャラクターの性格に違和感を
 感じられる方もおられるかと思いますが、そういったものを許せない方は
 ここでブラウザの「戻る」ボタンを押してお戻りください。
 なお、題材的に四章(一部六章)ネタバレを含む内容となりますので
 未プレイの方はご注意ください。

 それでも問題ない、という方は続きをどうぞ。
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『眠れる宮の王子』
RAYXANBER


樹生が自宅の焼け跡で倒れてから一日半が経過した。
外傷は無かったものの、あれからずっと眠ったままの状態が続いており、みる様は徹夜で付き添いを続けているのだという。
私が深夜に食事と着替えを持って部屋を訪れた時も、やはりみる様は彼のそばに座し、意識が戻るのを待ち続けておられた…。

「樹生は…まだ意識を取り戻さないのですか」

「うん…。
 わたしも樹生くんの鼻をつまんだり、針でチクチク突き刺したり、
 牛乳を鼻に流し込んだり、背中に氷柱を入れたり、
 目の下にタ○ガーバーム塗ったり、スタンガン当てたり、
 黒魔術でお祈りとかしたんだけど、起きてくれないの」

……。
みる様、何をやっているんですかアナタは(汗)
それに「黒魔術」って…樹生を呪い殺す気ですか!?

改めて周囲を見渡してみればそこにあるのは黒ヤギの頭や水晶球、無数の蝋燭に髑髏のオブジェetc、etc…。
その常軌を逸した光景に、私はただ呆然とする以外の術を持たなかった。

「みる様…いえ、なんでもありません」

私は、みる様が「誰からそんな方法を教わったのか」を聞こうとして結局やめた。
日の宮でこんな事を考え付くのは、自分の知る限り一人しかいないからである。

「まったく、何を考えているんだ和也め…」

私が溜息とともにぽつりと呟いたその時。

「お呼びでっか?」

唐突に耳に飛び込んできた声は、まさしく和也のそれ。
あわてて周囲を見渡すも、その姿は見えず。
みる様もきょろきょろと辺りを見回すが、その姿を確認することはできない。

「ここや、ここ」

返事と同時に天井の板の一部が外れ、そこから声の主が姿を現した。
…しかも、コウモリの如く逆さまにぶら下がった状態で。

「きゃあああぁぁーーーっ!?」

人の顔が突然目の前に、しかも逆さまに現れたとなれば、誰であろうと驚くのは無理もない。
それを見て私の脳裏に瞬間的に浮かんできた言葉は「変態」の二文字であり、その姿はまさにその言葉を体現するにふさわしいものだった。

「なっ…、
 お、お前は何故そんな所から出てくる!?」

「いや、いついかなる時でもみる様を影から監視…じゃなかった、
 守り通すのが『守』の役目であるからして。
 というわけでみる様。どんな時でも見守ってますさかい、ご安心を」

それってストーカーじゃないのか…?
そんな疑問が頭に浮かんだが、それよりも別に確認すべき事があることに気付いた私は即座に問いただす。

「和也…
 まさかお前、今までずっと覗いていたのではあるまいな?」

「うわっ、心外やな〜。
 わいはただ、みる様と樹生による記念すべき第1回目の愛の営みを克明に記録しておこうと」

「それを覗きというんだっ!!」

「なんや、樹生のやつまだ目ぇ覚まさへんのか。
 んーむ、あれだけの手を尽くしても起きんとは…。
 こうなると『アレ』を試さにゃならんわなぁ」

「人の話を聞けぇーっ!!」

先の指摘をあからさまに無視して一人考えにふける和也。
私は本気で締め上げようかと思ったが、みる様が和也に質問しているのを見て、仕方なくその思考を中断させる。

「和也くん、『アレ』って…?」

「ああ、それはまた新しい方法を考えついたんですわ。
 まずはわいの履き古しの靴下を樹生の顔面に…」

「やめんかバカ者!!」

ゴキャ!!

「ブホァ!」

先に出てきた内容から正直期待はしていなかったが、いくらなんでもこれは…。
こんな、誰であろうと5秒と経たずに窒息死するであろう毒ガス兵器を人の顔面に被せようとするとは、いよいよもってこやつの精神構造が疑わしくなってきた。
だが、そんな私の苦悩は露知らず、和也は「ならば次の手」とばかりに布切れのようなものを取り出し、樹生の顔面に被せている。

樹生の顔面を覆う白い布切れ。
これではまるで…。

「…なんだか、お葬式みたいだね」

私と同じことをみる様も考えていたようだ…。
私とみる様が冷たい&困惑の視線を送るも、和也は意に介さず、樹生の顔の側に追加の布切れを置いてゆく。
しかし…この布、どこかで見たような気が?

「ねえ、和也くん。
 これ、何か見覚えがあるんだけど…」

「ああ、そうでっしゃろな。
 これはみる様と楓姉さんの体操着やから」

「んなモノ、どこから手に入れたんだぁぁーーーっ!!」

ドガシャァァァーーーン!!


「どおえへぷ!!」

神力全開の剣撃が直撃(クリティカルヒット・9999ダメージ)し、和也は屋根を突き破って遥か彼方へと吹っ飛んでいった。

その後、日の宮の施設損壊ということで、和也ともども真柱様にきついお叱りの言葉を受ける羽目に…。
な、何故私が…(泣)


− *   *   * −


翌日夜。
あれからさらに一晩が経過したが、樹生は未だ意識を取り戻す気配がない。
実際、霊的な面からの治療も幾つか試してみるも、意識を取り戻すには至らなかった。

「樹生くん…」

みる様の表情にも、声にも、不安が滲み出ているのがはっきりと見て取れる。
なのに、私にはみる様のご期待に応えられないでいる、不甲斐無い自分を呪う事しかできないのだ。
そんな自分がとてつもなく腹立たしく、そして恨めしかった。

しかし、そんな思考も数秒後には木っ端微塵に粉砕されることになる。


「そんな時こそ、真打ち登場!
 影の主役、朝比奈和也ただいま参上! ちゅーわけやで!!」


その声と同時に、今度は猛烈な勢いで畳の一枚がめくれあがり、そこから和也の姿が…!!

「きゃあああぁぁーーーっ!?」

「お前はまともに部屋に入ってくることはできんのかーーッ!!」

「まあまあ、細かいことはええやんか。
 …てか、いっつもそーいう堅っくるしーことばっかゆーとるからいつまでたっても彼氏ができなゴハア!!

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 ただいま電波の状況が悪化しております。
 しばらくお待ちください。

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 (うぎゃあああ!?)
 (やめて楓さん!! 和也くんが死んじゃうよぉ!!)
 ………。
 …。


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 ただいま、電波の状況が回復いたしました。
 それでは、続きをお楽しみください。

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−数十分後−

未だ意識を取り戻さない樹生を前に、和也がぽつりとつぶやく。

「こうなったら最後の手段やな」

その一言で私の中の不安がまたもや増大する。
頼むからこれ以上私の胃痛を悪化させないでくれ…。
しかし、不幸にもというべきか、はたまた予想通りというべきか。私の祈りも虚しくその予感は的中することになった。

「古来より眠れる王子を目覚めさせる方法はただ一つ。
 それは…お姫様、すなわちみる様のキスや!!」

「……」
「……」

私とみる様、二人して沈黙すること数十秒。

めしゃ。

「い、いきなりグーパンチせんでもええやんか…」

「文句は自分の発言を省みてから言え。
 まったく…みる様も何か言ってやってください」

「う、うん。
 和也くん、いくらなんでも、これはだめだよ…。
 だって…王子様とお姫様の立場が逆だもん」

い、いや、みる様…。そうではなくて…。
指摘すべき箇所を根本的に間違えている彼女に眩暈を覚えつつ、私はその提案を全力で却下する。

「と・に・か・く!! 却下だ却下!
 …大体、本当にこの方法で樹生が目覚めるという保障があるのか?」

「でもなぁ…んなことゆーても、今んとこ他に手はないんやし…。
 楓姉さん、何か他に方法知っとりますか?」

「む…う」

そう言われると、私は言葉に詰まってしまう。
実際「他に手がない」という点においては確かに和也の言うとおりなのだ。

しかし、それでもみる様にあのようなことをさせる訳にはいかない。
が、肝心のみる様はといえば、上気したような表情でぼんやりと虚空を見つめつつ何か呟いている。


「キスなんて恥ずかしい…けど…もし、ここでわたしが樹生くんと…その…しちゃったら……。
 これを機に正式なお付き合いが始まって、一緒に映画館とか遊園地とか行って、そのうちに二人っきりで旅行とかも行くようになって…。
 そして、海の見える一流のホテルで星空を見ながら一緒にお食事して、その席で
 『天の川…綺麗ね』
 『ああ…。でも、今日の君はその何倍も綺麗だ…』なーんて事を言われちゃったりして、きゃっ(はーと)」

「……」
「……」

「そして二人のつつましくも温かな生活が始まった時には、
 『あなた、もう朝ですよ。早く起きてください。また遅れてしまうわ。
  うふふ、まったくねぼすけさんなんだから(はあと)。
  急がないと朝食が冷めてしまいます…』な〜んて…えへへ。
 それから『はい、お弁当』って愛妻弁当を渡して、わたしが『いってらっしゃい』って言ったら
 あの人は『ああ、行ってきます』って言ってわたしに行ってきますのキスを…いやん、恥ずかしい」

「どうやら、頭の中に樹生と二人で過ごす、ラブラブでバラ色の新婚生活が展開されているようやな」
「ラ、ラブラブって…(汗)
 みる様、お気を確かに!
 ……って、待て和也!! 結婚式場の冊子を置いて出て行こうとするんじゃない!!
 『た○ごクラブ』も片付けろ!!」


なんでこいつは毎度毎度ロクでもないことばかり思いつくのか…。
というか、こいつは実は黄泉の裔の変装した偽者で、本物の和也はすでに亡き者にされているのではなかろうか?

「ん〜む。
 みる様もダメ、となると…」

その言葉を発した瞬間、私には和也の目が怪しく光ったように見えた。
その視線に私の中の第六感が警鐘を鳴らす。
私の中の内なる声が、ここをすぐにでも離れろと叫び続ける。

「んじゃ楓姉さん頼むで」

……何?

「だってそやろ?
 今んとこ他に手はないんやし、みる様がダメなんやったら
 楓姉さんしかおらんで。

 それに、ここで主人公である樹生と関係を深めてフラグ立てておけば、
 後々発生する(かもしれない)ヒロイン選択で楓ルートが…」

(わ、私がヒロイン!? ということは…楓エンド?
 って、い、いかん、落ち着け! 何を考えているのだ私は!!
 みる様を差し置いて、そのようなことが許されるはずが…!
 いやしかし、今この機会を逃したらおそらくは…。
 ど、どうしよう…?)

混乱した頭の中でひたすらに自問自答を繰り返す私…。
そんな私に決断を迫るかのように、突如として目の前に選択肢が出現した!!

[キスしますか?]
・はい
・Yes
・OK
・了解
・御意

……え?

「おお、さすがは楓姉さん、話が早い!
 決心が固まったなら善は急げ。ちゅーことで一気にブチュっと」

「ま、待て!! 私はどれも選んでおらんぞ!?」

「いや、わいとみる様は部屋から出てるさかい、何も心配あらへんで。
 んじゃ、ごゆっくり〜」

「人の意思を無視して勝手に結論を出すなっ!!
 それ以前に何だこれは!! 拒否の選択肢が無いではないか!!」

「ま、これも運命ということで」

「そんな運命があるかあぁーーーーっ!!
 戯言もいい加減にし
……ちょっと待て。
 その手に持っているビデオカメラは…」

「それはもちろん、樹生との決定的瞬間を克明に記録しておくために決まっとるやん。
 そしてそれをネタに樹生をおちょくって、さらには女性陣との修羅場をじっくりと記録観察って…あ?」

私は満面の笑顔を保ったまま、手の中に剣を創り出す。
私の顔と手を交互に見て、冷や汗を流しながらじりじりと後ずさりをする和也。

さすがに私が発散する闘気−殺意の波動ともいうが−に気付いたらしい。
(BGM:黄泉の風)


「和也…。

 お前を、殺す」


「ヒ○ロかいな…
 って! い、いまマジで剣が頬をかすめて…。
 う、うわああ!? か、楓姉さん、おおお落ち着いて!!」

「問答…無用ーーッ!!」

「のわあぁぁぁぁーーーーーっ!?」

「逃すかあぁぁーーーッ!!」


それから後の事は…良く覚えていない。
ただ、気がついたら血まみれになった和也が目の前に転がっていたのだが…あれは多分幻覚だろう。
でも、ヒロインの権利を捨てたのは少し勿体無かったな…。


− *   *   * −


「二人とも、仲がいいよね」

いつの間にやらあっちの世界から戻ってきていたみるは、
和也と楓、二人が出て行った廊下の方を見てにっこりと笑い、そっとつぶやいた。

楓や和也を始めとして日の宮の人達は皆、自分の事を気遣い、大事にしてくれている。
もしもわたしが危機に陥れば、彼らはわたしを救うために命を投げ出すことすら厭わないだろう。
……でも、そうやって守り、気遣ってもらう度にわたしの中には感謝の気持ちと同時に
なんとも言えない寂しさが浮かび上がってくるのだ。

なぜならば、わたしは「日神子」だから。

わたしは、この国の魔と対峙する「日の宮」の頂点に位置する「日神子」として、黄泉の裔の手からこの国を守ることを運命づけられた。
だから、わたしは他の普通の子たちと同じように−学校に行って、友達と遊んで、恋をして−生きてゆくことはできない。しちゃいけない。
ずっとそう思っていた。

そんな中、出会ったひと。
見ず知らずの人間だったはずのわたしを、命がけで守ろうとしてくれたひと。

その後わたしは、彼の記憶を消そうとした。
わたしの立場を、生きる世界を知り、それ故に何度も危険に巻き込んでしまった。
それでも彼は、わたしを「日神子」ではなく、ひとりの友達として対等に見てくれている。
わたしにはそれが何よりも嬉しかった。

「樹生くん…」

どんな困難があっても、どんな小さなことでもいい。わたしは彼の力になってあげたい。
たとえ、彼とわたしが違う道を歩むことになったとしても…。


部屋に残されたみると樹生。
二人がどうなったかは、夜空に浮かぶ月だけが知っている。


End
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●おまけ(?)

楓の日記 番外編

某月某日
 公務の打ち合わせのため、和也を呼びに部屋へと向かう。
 入り口で呼ぶも返事がないので、居眠りか?と思い部屋に入る。が、本人の姿は見当たらない。

 ふと机を見ると、様々な呪符の試作品が所狭しと並べられている。
 そういえばあやつは符術の使い手でもあったな…。
 和也はいったいどんな呪符を作ろうとしているのだろうか。
 興味を持った私は、何枚かの符を取ってみた。

 「一日一善」
 「出玉全開」
 「麻婆豆腐」
 「上上下下左右左右BA」
 「→←→P+K」etc…

 「……」

 日の宮の符術師全員の平和と名誉のため、迷わず全て焼き捨てる。


某月某日
 深夜、日の宮の庭にて樹生と対峙する。
 日の宮の守として、ひいてはみる様のために。こやつの力を見極めておかねばならぬ。
 しばしの間、共に無言で相対するが、そこに突如として予想だにしない声が飛び込んできた!

 「やめて! 二人とも!!」

 「みる!?」
 「みる様。
  申し訳ございませんが、ここは私の話を先に聞いて…」

 みる様は、私と樹生が戦うとでも思っていたのだろう(まあ、その時私は剣を手にしていたから無理もあるまい)。
 だが、みる様の口から放たれた言葉は、私の予想を遥かに超越したものだった…。

 「お願い、やめて。
  樹生くんと楓さんがわたしをめぐって争うなんて…!」

 …は?

 「楓さん…。楓さんのその気持ちは嬉しいけど、
  えっと…、わたしたちって、その、やっぱり女の子同士だし、
  あ、嫌いとかそういんじゃなくて、なんて言うか、その…」

 え? え? ちょっと!?
 マズい。なんだか猛烈に嫌な予感がする。

 「日向…お前、そういう趣味だったのか…。
  いや、まあ…今は自由な時代だからな…」

 「樹生! お前何か勘違いして…」

 「日向、みるを幸せにしてやってくれ……」

 「違うぅぅーーーーーーーーーッ!!」

 その後、1時間を費やして私とみる様の関係について再説明する。
 つ、疲れた…。


某月某日
 日の宮を散策中に鍛錬中の和也と樹生を発見。
 どうやら和也が樹生に肉弾戦技術の手ほどきを行っているようだが、それにしては様子がおかしい…?

 和也と樹生は数メートルほど離れて対峙している…が、突然に同時に二人とも互いに向かって駆け出した!

 「ぬあぁぁっ!! 答えろ樹生!!
  流派、東方不敗は!!」
 「王者の風よ!!」
 「全新系裂!!」
 「天破侠乱!!」
 「「見よ!!
  東方は赤く燃えているぅッ!!」」

 そう言って奇妙なポーズのまま拳を合わせる二人……。
 こいつら、頭方腐敗の間違いではないのか…?


某月某日
 みる様に「自分も何か戦うための力を身につけたい」という旨の相談を受けた。
 私はそのような必要は無いと何度も繰り返し申し上げたのたが、みる様は頑として聞き入れない。
 2時間にも及ぶ問答の末、敗北を認めざるを得なくなった私は、仕方なしに次のような提案をした。

 「みる様の持つ神力は、傷を癒したり、味方を守るという防御的な面が強いですから、
  無理して攻撃的な力を得るよりは、元からある防御的な力の方を伸ばしていった方がよろしいのではないでしょうか。
  ただ…申し訳ございませんが、私はそちらの方面にはそれほど詳しくないものですから…。
  これについては和也の方がより的確な助言を出せるかと思います」

 それを聞いたみる様は、嬉々として教えを請いに和也の部屋へと向かっていった。
 どんなものであれ、他人に教えるということには相当の技術が必要だが、ああ見えてあやつも日の宮屈指の術士だし、まあ大丈夫だろう。


 −それから数時間後−
 廊下で出会った術士達から相談を受ける。

 「和也様の部屋から…みる様の…その…変な掛け声が聞こえてくるのですが…。
  『ベホマー!』とか『ケアルガ!』とか『ザオリクー!』とか…。
  あれは一体何なのでしょうか?」

 あの馬鹿は何を教えているんだ……。
 またもや頭痛が再発したのは言うまでもない。


某月某日
 深夜の鍛錬を終えて自室へと向かう最中、和也の部屋から何やら妙な気配がする。
 こんな時間に何を…? と耳を澄ますと、部屋の中から聞こえてきたのは
 ぜえぜえという荒い息遣いと、くちゃくちゃ、じゅるじゅるといった感じの、何かを食べ、すするような音…。

 そして、その直後に発せられたのは、まさに絶叫と形容するにふさわしき悲鳴。そして轟音。

 「な、何事だっ!?」

 私はすぐさま和也の部屋に入り込むが、そこで見たものは、
 倒れた棚と、その中身に収納されていたであろう書籍や道具類の山、山、山…。
 さらにはいたる所に空き缶とチューブ類、くしゃくしゃになった呪符の束などが散乱し、
 まるで爆撃にでもあったかのような有様だ。

 「和也! どうしたっ!!」
 「ぐ…油断しとったわ…(ガクッ)」

 和也は床にうつぶせになって倒れ、その周囲には真っ赤な液体と、
 ブヨブヨした肉塊のようなものがそこかしこに飛び散っていた。
 私は服が汚れるのも構わず和也を抱き起こして部屋から運び出そうとしたが、
 周囲は濡れた床に崩れた荷物の山という劣悪な状況。
 そんな中、女の私の力で男性一人を運び出すには少々無理があった。
 しまった、と思ったときには時既に遅し。
 崩れた荷物に足を取られて私は荷物の山に突っ伏してしまい、そのまま暗転した視界の中、意識を闇の中に沈めていった……。


 …。
 ……。
 ………。
 瞼を通して入ってくる光に気付いた私は、おそるおそる眼を開ける。
 ここは…。

 (私の…部屋?)

 とりあえず自分の体に異常はないようだが…いったい私はどうなったのだ?
 とにかく覚えている限りの記憶をたどる。

 (そうだ…夜の鍛錬を終えて、和也の部屋で妙な気配がした直後に悲鳴と轟音があって…
  その後和也を助けようとして……そうか、逆に私が気絶してしまったのだったな。
  ……! あいつは、和也はどうしたのだ!?)

 昨日のあの状態から考えれば、相当の重症を負っていてもおかしくない。
 いや、下手をしたら…!
 私はいてもたってもいられなくなり、すぐさま和也の部屋へと向かった。


 和也の部屋は、まだ多少荷物が散らばっていたものの、昨夜の惨状からは
 想像もできないほどにきちんと片付けられていた。

 「お、楓姉さんやないか。もう起きても平気なん?」

 「ああ、私は大丈夫…って、そんなことより!!
  お前あんなに出血したのに…って、え…?」

 私の眼に写る和也の姿は、全くどこから見ても五体満足の健常者そのものだ。
 いくら日の宮の術士であっても、あれほどの怪我を一晩やそこらで治すのはまず不可能なはず。
 それでは昨夜のアレはいったい…?

 「…和也、お前…昨夜はいったい」

 すると和也は頭をかきながら、

 「あ〜、最近結構忙しい日々が続いとるやろ?
  けど、みる様の護衛とか、守としての仕事に割く時間は削れんから、他のいろんな事をいっぺんに片付けられんかな〜と思って、ちと挑戦してみたんや」

 「色々な事…?」

 「そや。
  で、まずは夕食と鍛錬と、夜食の準備を一度にやろと思ってな。
  筋トレしながら夜食にレトルトのシチューとか作って、まあ色々
  飲み食いしつつ呪符の整理をやっとったんやけど…。

  トマトジュースが気管に入ってむせたところに、机の角に足の小指をぶつけて、転倒したところで棚が崩れて…と、まあそういうことや」

 「……」

 「いやぁ〜、やっぱ運動と料理と食事の平行作業は無理やったわ」

 「……」


−その直後…再び和也の部屋からすさまじい絶叫と轟音が響き渡り、そして静かになった…−


End
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●あとがき

[みる]
えーと、全員揃ったね。
お茶とお菓子も行き渡ったし、これからみんなで本作『眠れる宮の王子』についての座談会を始めたいと思います。

[楓]
みる様…いきなりで申し訳ないのですが…。
何故我々が座談会なぞ開かねばならないのですか?
本来ならば作者の後書きがここにくるはずだと思うのですが。

[和也]
ま、別にええんとちゃう?
強いて言うなら、『作者がこういう形の文章を書いてみたかった』だけって気もするけどな〜。

[樹生]
ありうる話だな…。
(楓うなずく)

[みる]
ま、まあ、それは置いといて…。
今回は樹生くんも出番があったわけだし、ね?

[樹生]
ああ…っていっても寝てただけだけどな…。
しかしお前ら…俺が気絶してる間にあんなことやってたのか?
最初の方でスタンガンだのなんだのって…ほとんど拷問じゃねーか。

[和也]
いや、この話は本編とはあんまり関係ないから。…たぶん。

[樹生]
「あんまり」とか「たぶん」ってなんだよ!!

[みる]
あ、あははは…(汗)
そ、そういえば楓さん、今回も主役、ご苦労様でした。(ぺこり)

[楓]
いえ、大した事では…。
お心遣い、痛み入ります。

[樹生]
(あからさまに話をそらしやがって…)
まあ確かに、和也はともかくとして、みるも日向も本編のイメージを完膚なきまでにぶち壊した見事な壊れっぷりだったな。

[みる]
う、うう〜。だって仕方ないじゃない。
台本がああなってるんだもん…。

[楓]
あれは完全に馬鹿作者の創作だっ!
…もっとも、それが創作であろうとなかろうと、みる様をコケにしている時点で万死に値するが。

手始めに、以前の日記の分も踏まえて丁重な礼を返してやるようにとの指示で折衝員を三名ばかりこの馬鹿作者の下へ派遣しておいたがな。

(こ、怖えぇ〜〜)
(…合掌)
(え、えと…い、いいのかな?)

[和也]
まあ、楓姉さんが壊れてるのは「イジりやすいから」てのと「ツッコミ役がいないから」つー理由やな。
楓姉さんは本編のままやと、ボケにいちいち反応せんでスルーやからギャグが成り立たん。

それはさておき。
樹生。さっきの「和也はともかく」ってとこ、えらく気になるんやけど?

[樹生]
いや…まあ確かに天井とか床下から現れるとこはちょっとやりすぎとは思ったけどな。
正直、それ以外の部分は本編との違和感をあんまり感じなかったんだよ…。

[楓]
確かにそういった印象は否定できんな。
重要局面ではともかく、普段は軽口ばかり叩いている印象が強い。

今回の天井やら床下やらから登場するのも、そういった印象を大袈裟にしたものだろうからな。
あれでは完全に変質者だが、正直違和感は薄かった。

[みる]
それって、普段の和也くんは馬鹿なことばっかりやってる、ってこと?

[楓]
ええ、そういうことです(キッパリ)。

[和也]
?( ̄□ ̄‖) ガーン…
ふ、ふんだ。どうせわいはネタキャラ…。

[みる]
ま、まあまあ、和也くん、元気出して。
ほら、わたしの羊羹あげるから…。

[和也]
あ、ありがとうございます、みる様〜(T∀T)
ああ…やっぱしみる様はわいにとって、名実共に女神様やね。
わいは、わいは…、今猛烈に感動しとりますうぅぅぅぅ!!

[樹生]
感動してむせび泣くほどのことか…?

ん!? て、てめー、ドサクサにまぎれて俺の羊羹まで!!

[和也]
まあそう言うなや(もぐもぐ)。
樹生は主人公で色々と優遇されとるんやから、ケチケチせんと
どーんとでっかく構えとればええ(もぐもぐ)。

[みる]
色々と優遇されてる…って、たとえばどんな?

[和也]
ん〜例えば…。
本人の意思に関わらず、美人が寄ってきて好意を抱いてくれるとか…、
ヒロイン達のアレな姿を拝めたりとか、その他諸々(にやにや)。

特に六章では、両者の明確な合意は無かったけど一歩前進したわけやし。
今後の展開によっては、それ以上にステップアップするのも時間の問題って感じやな〜。

[樹生]
いや、六章のあれは、緊急手段であって、その、つまり…。

[楓]
…? 樹生、一体何のことだ?

[樹生]
な、何でもない、何でもないんだよ!!

[和也]
それだけやないで〜。
三章では、みる様がこけた時にちゃっかり見ちゃっとるし、
四章では、(本筋ルートやないけど)みる様を強引に押し倒してあ〜んなことを…。
五章でも…

[楓]
……。(冷たい視線)

[樹生]
そ、そうだ、お、俺真柱さんに呼ばれてたんだった、それじゃ!!
(ダダダダダ)←逃げてる

[みる]
あ、樹生くん待ってよ〜!
(ぱたぱたぱたぱた)←追いかけてる

[和也]
…とまあ、こうして二人が席を外したのと、作者のネタ切れにより
座談会はここでお開きにさせていただきます〜。

[楓]
なんて強引な終わり方だ…。

[和也]
それは同感やけど、細かいことは気にせずに。
作者は、また機会(ネタ)があれば(性懲りもなく)何か書くつもりでいるみたいなんで、そんときはよろしく〜、
とのことですわ。

[楓]
どうせこの程度の駄文しか書けないのだから、いい加減に止めておけば良いものを…。
身の程知らずとはこのことだな。

[和也]
あと、最後に言い訳を一つ。
キス云々の箇所については、四章公開直後からネタとしては思いついていたらしいんですが、
本編にて先に使われてしまった、とのこと。
まあ、その箇所も含めて批判については甘んじて受けると、そういうことで。

[楓]
では、さらばだ。