『水着SS』


ギラギラと照りつける太陽
青い空、蒼い海
そして、波打ち際で戯れる少女たち…
あぁ、青春…

べしっ

「さっさとパラソルを立てんかっ」

ジンジンと痛む後頭部を押さえながら

「へーい」

と答える。

「何か不満か?」

ジロッ

「いーえ、何も」

和也は、二発目を恐れて素直に少女たちの休息場をつくるべく汗水流しながら労働にいそしむ。
当然、もう一人の労働力、樹生は無言で働いていた。
言葉より手が先に出る監視役がいては、さすがの彼も口より手を動かさざるおえなかった。
そのいい例がさきほどの和也である。
そして、和也の後頭部の痛みの原因を作った日向はというと、男どももがさぼらぬようついでに女性に不埒なことを働かぬよう目を光らせていた。

「あの、手伝いましょうか?」

そう言って声をかけてきたのは、姫宮綾乃が連れてきた少女たちの一人。
長い黒髪の美少女、清水由布子だった。
なんでも姫宮綾乃親衛隊の隊長らしい。

「お気遣いなく。それよりも綾乃さんを護衛しなくてもよろしいのですか?」

手伝いを申し出た清水に対して、日向は丁重に断るとそう声をかけた。

「あっ、それは」

ちらっと彼女の後ろにいたもう一人の少女を見つめると、困惑気味に立ち尽くした。
彼女の後ろにいた眼鏡をかけた理知的な少女は、にこっと微笑むと

「彼女、力仕事も得意なので手伝わせてあげてください」

と清水の代わりに答えた。

「あなたやそちらのお二人がいらっしゃったら、姫もあなた方の大切なお方も大丈夫でしょう?」

「なるほど」

それは過信というのではなく、確信とも取れる言葉だった。

「わかりました、ではお願いします」

日向がそう答えると、清水はせっせと手際よく和也や樹生たちを手伝って場所の確保をした。

………
……

「なぁ、どこまで知ってる思う?」

「えっ、何が?」

何を言ってるんだ?という風に樹生は和也を見る。

「あの眼鏡のねーちゃん。わいらのこと、どこまで知ってるのかなぁと思ってな」

「さぁ、綾乃さんはそうぺらぺらしゃべるような人じゃないだろう」

だから、知らないんじゃないか?という風に樹生は答えた。
しかし、和也がにやっと笑う。

「姫宮の次期ブレインという噂のある人やで?」

「次期ブレイン?彼女が?」

樹生が、ちらっと盗み見ると偶然にも眼鏡の少女と目が会う。
にこっと微笑むとまた何かを真剣に聞き入っていた。

「何聞いてるのかな…」

「株です」

「えっ」

「株式相場をちょっと…」

「はぁ」

思わず呟いた樹生に自然に答えると、また株式相場のラジオ(?)を聞き始める。

「う〜ん、ミステリアスやなぁ。海水浴場まで来て株式相場やなんて」

「私たち一般庶民にしてみれば、あなた方の方が十分ミステリアスですね」

にこっ

と今度は和也に微笑む。

「そりゃ、誤解やで。わいら普通の高校生やさかい」

と和也もまけじと微笑む。
うっ、まるで狐と狸の化かしあいのようだ。
樹生は、めらめらと燃え上がるオーラに余計に暑くなった気がした。

「しかし…、ええ趣味にしとるな。姫宮のじいさん…」

「ブランドもののらしいですね」

「ブランドもののスクール水着!?」

樹生は思わず叫んだ。
さすがにブランドもののスクール水着なんてあるのか?という突っ込みをいれたくなるのはなんとか抑えた。
あのじいさんならやりかねない…
なかったら、ブランドものスクール水着さえも作りかねない。

「でもさ、ブランドもののスクール水着といわれてても、あのみるの隣で遊んでいる女の子のスクール水着と大差ないように思うんだけどな」

「あぁ、乃亜の水着…」

「あっ、はい」

「あれを用意したのも姫だから、きっと同じものではないかしら」

「なるほど…」

眼鏡の少女の言葉に納得してにやにや見つめる和也。

「えぇぇ」

と驚きの声をあげるのは樹生
血は争えないってことか!?

「しかし、天宮さんだっけ?さすが聖ラファエラの諸葛亮孔明と名高い人やな。すごい情報量や」

「あなた方の情報量に比べれば些細なものですわ」

狸と狐の化かしあいに入れない樹生は、みるを見ながら思わず呟いた。

「でもさ、みる、楽しそうでよかったな」

「そうやな」

樹生に相槌をうつように和也も呟いた。

「そうですね、姫も楽しそうでよかった。」

「きっと、宮澤さんが一緒だからですよ」

姫を愛しそうに見つめる天宮に清水も同意する。

「姫宮のじいさんのおかげやな。同じ年代の女の子と一緒やから余計にやろ」

「そうだな」

波打ち際ではしゃぐ三人を見ながら、保護者一同はそれぞれこの海水浴に来てよかったと感じていた。



「ほんとに成功じゃな」

とこの海水浴を仕組んだ張本人。
姫宮グループ会長も遠くから車を止めプライベートビーチの様子を見ていた。
みるちゃんが、一度でもいいから海水浴をしたいというのを聞きつけた姫宮翁は、ちょうど夏休みに近くの別荘に来ていた孫の綾乃に声をかけた。
綾乃は、彼女の後輩である少女と親衛隊の同級生、そして、姉である天宮有紀と一緒に来ていた。
むさい男どもとわしのかわいいみるちゃんを遊ばせるわけにはいかんということで、急遽みるちゃんたちとプライベートビーチで一緒に遊ぶように指示した。
しかし、この姫宮翁の企みは見事成功したといえよう。
楽しそうなみるの笑顔を遠くから望遠鏡で確認することが出来た彼はいたく満足していた。

「それにわしの送ったすくーる水着もばっちりにおうとる」

しかし、その楽しい気分も一瞬のうちに吹き飛ぶ事件が起こった。

「あれはなんじゃ」

姫宮翁が気づいたものに、パラソルで休んでいた保護者一同も当然のごとく気づいていた。

「姫っ」

真っ先に声をかけたのは、天宮だった。
その天宮の言葉にはじかれたように、清水が綾乃の下に走る。
そして、樹生と楓、和也の三人もみるの下に走った。

「乃亜っ」

天宮の声に気づいた綾乃もとっさに乃亜の手をひっぱり自分の下に引き寄せた。
海の向こうから、黒い物体が突進してくるのが見えたのだ。

「みるっ、こっちだ」

樹生は真っ先にみるの元にかけつけると、彼女に手を差し伸べた。その手をみるは必死に掴む。
それぞれが、それぞれの大切な人を助けに走る。

そして、黒い物体は楓と和也の働きによって無事排除された。
えっ、黒い物体の正体?
そりゃ、決まってじゃないですか。
夏に海といえば、ジョーズ!!鮫ですよ。
楓によって三枚におろされた鮫は、姫宮の別荘でフカヒレにされたとかされないとか。

そして、その夜…

「みるのスクール水着はよかった」
「乃亜のスクール水着はよかった」
「先輩の白い水着、綺麗だった」

と煩悩に眠れない人たちが数名いたとかいないとか。
夏と水着と煩悩は、切っても切れないものらしいというお話でした。

― fin ―