この作品はお絵かきBBSで描かれた神楽さんのひよこが元ネタですv




『ひよこと因幡は合体できるんです〜馴れ初め編〜』
ゆげちまる

 ワガハイはひよこである。名前はまだない。
 イギリスは鶏王の公邸ピョッキンガムに生を受け、ティックィンガーズ(闘鶏騎兵)としての英才教育を受けてきた。
 しかしながら神はワガハイに残酷な運命を背負わせた。周囲の雛達が次々と鶏へ成長していく中、ワガハイはただ一人黄色い雛のままだった。
 そして同期の雛が全て鶏になった時、ワガハイの体は大きさだけが成長し、ついに姿形は幼い雛で止まる。
 当然ながらワガハイは周囲からの迫害を受け、目をかけてくれていた教官さえもティックィンガーズとしての資格なしと退学を言い渡した。
 王族としてのエリート意識の反動か、その劣等感は凄まじいものがあった。
 母君父君の優しい言葉を怒鳴り返し、躊躇うことなく祖国を後にしていた。
 だがその自暴自棄の旅の果て、思い知ったのは自分の狭量さである。
 たかだか姿見一つに拘り、周囲からの理不尽な言葉に屈し逃げ出してきたことを思うと、ワガハイは途端に自らを恥じた。
 そこでワガハイは心気を一転し、己というものを見つめ直す為に改めて旅に出た。
 道中、日本という国に於いて仏教思想というものの在り方に感銘を受けたワガハイは、もとより信仰心の薄かったプロテスタント(国教)を捨て、仏門に降り日々荒行を繰り返すようになる。
 それらの日々は辛いながらも、黎明に臨むような清々しさと、世界の美しさを知った。
 やがて一つの悟りを開いたワガハイは、高貴なる魂を忘れずに、広大な世界を見つめ直す為に法衣を脱ぎ、再び日本中を旅することになった。
 今日は、そんなワガハイが道中に出会った一人の女性との話をしよう。
 戯れに耳を傾けていただければ幸いである。

 ◆

「はぁ〜、今日はなっちん様に怒られるしぃ〜、関西弁にもひよこって言われるしぃ〜、サイアクですぅ〜」
 学校の帰り道を肩を落としてとぼとぼと歩いている私の名前は因幡雛子(ひよこ)。美形で苦労人のナイスガイ、なっちん様にお仕えする黄泉の映画研究会の下っ端なのです。
 だけど今日も日神子の森進一愛好会の人達にバカにされて、ちょっぴりブルーです。
「髪の毛金髪で名前がヒヨコだからって、単純すぎますよぉ〜ほんとぉにぃ〜」
 いつもいつもひよこひよことバカにしてくる朝日奈和也っていう関西弁のばか。本当に酷いですよねぇ〜。
「ピヨピヨ」
「ふぇ〜?」
 すると突然背中から声がかけられました。ちょっと驚きながらゆっくりと振り返ります。
「ピヨ」
「え〜とぉ〜、どちらさまですかぁ〜?」
 そこには足元に、まん丸の黄色い塊がありました。それがピヨピヨと何か囀っています。
 よく聞き取れないのでしゃがみこんで耳をすますことにしました。
「ピヨ(どうした学生の少女よ、真昼間から随分と陰鬱ではないか。よければワガハイが相談に乗ろう)」
 どうやらその黄色い塊――妙に大きなひよこさん――は私のことを心配してくれているらしい。
 でも気にしていることがひよこと呼ばれることなので、少し複雑な気分です。
「ピヨピヨ(そうか、人間には言葉は通じぬか。似た空気がしたので戯れに声をかけたが、種族の壁とは中々に厚い)」
 しかしひよこさんは私の様子を誤解したようで、少しだけ寂しそうな表情をする。
 私は慌ててそれを否定しようと言葉を探した。
「あ、違うんですよぉ〜。実は私の名前が雛子って言ってぇ〜、あと髪の毛も元から金髪だっていう理由でぇ〜、「ひよこー。焼いて食ったるー」とかいっていじめる人がいるんですよぉ〜」
「ピヨヨ(ほう、通じるか。稀なこともあるものだな。ともあれ意思の疎通が容易ならできうる限りはさせていただこう。簡潔に纏めさせてもらうと、自分の呼び名で困っているのだな」
「そうなんですよぉ〜。ひよこさんには悪いんですけどぉ〜」
「ピヨ(構わぬよ。君が不快に思うことと、それそのものの価値は無関係だ。ワガハイへの態度が友好的なものである限りワガハイも君を友人と見る)」
 どうやらこのひよこさんは特に気にせず相談になってくれるらしいです。
「ピヨヨピヨ(先ず問うが、君はこの状況をどうしたい?)」
「え〜とぉ〜、とりあえずいつもいじめてくる朝日奈和也君をギャフンと言わせたいですぅ〜」
「ピヨ……(ギャフン……)」
 私、何か困ったことを言ったんですかね?
 ひよこさんがとっても困った顔しています。
「ピヨピヨ(要するに、その男に一泡吹かせたいと言うのだな)」
「はい、そうですぅ〜。一泡どころか白目を剥かせながら鼻と口からぶくぶくですよぉ〜」
「ピヨヨ……(言葉も暴力と言うがそれは直接的すぎるだろう……)」
 そういうわけで、私達は朝日奈和也をギャフンと言わせる作戦を考え始めました。
「ピヨヨ(思うに、その男に直接危害を加えるような真似をするよりも、君自身が変わった方が建設的ではないか?)」
「私自身が、ですかぁ〜?」 
 どういうことだろう。少し考えてみますけど、よくわかりません。
「ピヨピヨピヨ(ひよこひよこと彼が言うのは、君がひよこと言われるのが嫌だと知っているからではないのか? ならばこちらがあえてひよこ好きだと言ってしまえば、向こうはひよこと君をバカにできなくなるだろう。それは君にとって、不快の言葉ではないのだから)」
「ああ〜、そういえばそうですねぇ〜」
 そっかぁ、私がひよこ好きになればよかったんだぁ〜。
 要は開き直れってことです。
「それで、具体的にはどうすればいいんですかぁ〜?」
「ピヨ(うむ、そうだな……)」
 こうして、私はひよこさんの特訓を受け、朝日奈和也に挑むのでした。

 ――後日――




 ピヨピヨ、ピヨピヨピヨ……
「どうですかぁ〜? これが本当にひよこ頭ですよぉ〜?」
 私はひよこさんの助言の通り、ひよこ好きになって朝日奈和也の前に立つ。
 その周囲には目一杯のひよこと、腕にまで抱きかかえられたひよこ、そして頭の上にはひよこさん。
「いや、どうて……」
 どうやら朝日奈和也は私の勢いに圧されているみたいです。
「ギャフンですかぁ〜?」
「いや、そら色んな意味でギャフンやけど……」
 やりましたぁ〜! ギャフンですよぉ〜!
「ひよこ頭っちゅーか……ひよこ人間に進化しよった」
「え」
 ひよこ人間。
 自分を見回してみる。
 ひよこひよこひよこひよこひよこひよこひよこ。いっぱいのひよこ。
「あ〜、ひよこ人間ですぅ〜」
「おまえ何がしたいねん」
「ピヨピヨ……(だからやりすぎだと言ったのだが……)」
「これじゃあ意味ないですよぉ〜、ひよこさぁ〜ん」
「ピヨ(まあ、失敗は成功の母。次なる糧と知れ)」
「ふぇ〜ん!」

 ◆

 とまあこのようにワガハイはここで出会った不思議少女と暫く懇意にしている。
 宿まで提供してもらっているので感謝の極みと言えよう。
 どうということはないのだが、出会いとしては印象的だったので語ることにした。
 これからはこの街に少し留まろうと思うので、是非彼女の知人とも仲良くしたいものだ。
 では、これにて一度眠るとしよう。