『和也のささやかなる野望』 | |
by薫 |
ある晴れた、とある人達には記念すべき日。 「みる様ぁ、わい命をかけた頼みがあるんですけど」 そう言って、和也はみるにいきなり声をかけた。 何か思いつめた彼の表情が、みるを不安にさせる。 「どうしたんですか?何か困ったことでも?わたしに遠慮せずに言ってください」 みるも真剣な表情で和也に答える。 いつも命をかけて自分を守ってくれている和也の頼みである。 みるに拒否という答えなどあるはずがなかった。 「実は…」 「実は?」 しかし、和也は次の言葉を発しようとしない。 ドギドキしながら、和也の次の言葉を待つ 「実は…」 「…(ごきゅ)実は?」 つい、生唾を飲んでしまう。 それでも和也は、一向に次の言葉を発しようとしない。 しかし、次の瞬間、みるの目の前に驚くものが現れる。 ズサっ 「これを着て欲しいんですねん」 ドンっ 「な、何、こ、これ…」 みるは、大きくのけぞり、後ろの壁まで勢いよく後ずさる。 「ネコ耳ならぬトラ耳!!プラス尻尾ですねん」 和也は、意気揚々と解説を加える。 その迫力は、みるの気をも飲み込みかねない勢いである。 普段の和也からは、想像もつかないその気迫にみるも驚きを隠せない。 「待て、和也。貴様、みる様にそんなもの着せるつもりか?」 その和也の気勢を削ぐように、別の気が二人の間に割って入る。 その気を発したのは、他ならぬ楓だった。 みるの危機を察した楓が、あわてて二人の間に割って入る。 「うぐぅ…。いくら楓さんが止めても、わい、今日は引けんのや。苦節18年…、待ちに待った時が来たんやぁ…。誰も今のわいを止めることは出来へん。この想い!!命をかけてもおしいないんやぁ〜」 「なっ、か、和也にこれほどの気が…」 一瞬はひるんだ和也だったが、これぞ阪神ファンの底力とでもいうように、楓の気までも凌ぐ。 その和也の気迫の前に、楓も何も言えず押し黙る。 「みる様…、お願いや、これ着てくれませんか?」 コクコク… 「ほんまですか?ほんまに着てくれますか?」 コクコク… 「よっしゃぁ」 みるは、和也の言うままにただ頷くしかなかった。 しかし、そのまま黙っている楓でもなかった。 渾身の力を振り絞り、何とか抗議の声をあげる。 「まっ、待て、和也。みる様に着せるくらいなら私が着る」 「楓さん!!」 「……」 その言葉に誰もが驚いた。 しかし、同時に別のことも考えた。 ((楓さんが着たとこもみたいかも…)) 和也のみならずみるさえも、普段の楓からは想像もつかない、この衣装を着たかわいらしい姿の楓を見たいと思った。 しかし、そこはそれ。 和也は、その欲望を悟られることなく、仕方ないという風に楓に答える。 「しかたい、ほんなら楓さんでもがまんするわ」 「楓さん、無理しないで」 みるも心底心配しているという風に答える。 「おかまいなく。無理などしておりません。みる様にこのようなものを着せることに比べたら、このぐらい平気です。」 バっ 「貸せっ」 楓は、和也の手からそのコスプレ衣装を奪い取ると自室に引きこもった。 彼女が、勢いよく部屋を出ていくのを確認すると、和也はゆっくりとみるに振り返った。 「みる様」 「何?和也くん」 「楓さんにばっかじゃかわいそうなんで、みる様はこっち着ませんか?」 そう言って、もうひとつの服を差し出す。 「あっ、そうですね。じゃあ、すぐ着替えて着ます」 タタタっ みるもさすがに良心が咎めたのか、その服を受けとると自室に戻る。 ……… …… … しばらくして… 「か、和也、着替えて来たぞ」 少し照れながら、トラ耳と尻尾をつけた楓が姿をあらわす。 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。な、なんて素晴らしいんだぁ〜」 それを見た瞬間、和也が吼えた。 その声に、楓の顔が真っ赤になる。 「も、もういいだろ」 「駄目や。みる様に見てもらわんと」 「うっ…」 キョロキョロ… 仕方ない、という風に楓は部屋を見回した。 だが、肝心のみるの姿が見当たらない。 不安になり、楓は和也に問いただす。 「和也、その肝心のみる様がいないようだが。」 「あっ、大丈夫や。すぐにもどるって」 とその時 「わぁ〜、楓さん、かわいいぃ〜」 ドキっ その声は、楓の後方から聞こえてきた。 驚いた楓は、あわててその声の方へ振り向いた。 「み、みる様。いきなり後ろから声を…かけな…い…で」 「?」 みるの姿を見た楓の声が、急に途切れる。 そして、楓の怒りのオーラーが急速に増していくのがわかる。 びくっ その気に、さすがの和也も一歩後ずさる。 「か、和也ぁ」 「あっ、でも…」 突然、そんな楓の気を削ぐように、みるが言葉を発した。 「な、何ですか?みる様」 天の助けとでも言うように、そのみるの言葉に和也が答える。 楓の視線もみるに自然と向けられる。 「和也くんって何歳だっけ?」 「……」 ぎくっ 和也の身体が、わずかに揺れた。 まさに突っ込まれたくない言葉だったようだ。 「だって、さっき和也くん、苦節18年とか言ってたけど。よく考えたら、18年前に和也くんって生まれてたのかなぁ〜と思って…」 みるは、能天気に自分が思った疑問を口にする。 しかし、それに反して 「か・ず・やぁ〜」 地獄の底から沸き起こるような楓の声が部屋に響き渡る。 黄泉の裔も真っ青な声である。 その声に命の危機を感じた和也が、脱兎のごとく部屋から飛び出した。 「待てぇ〜、和也ぁ〜」 それを逃すまいと楓も飛び出す。 とうのみるは、にこにこしてそれを見ているだけだ。 そして、まさに命をかけた頼みなんだなぁ〜と一人納得している。 「あっ、そだ。記念写真を撮らなくちゃ」 そういうと、あわてて近くにいた者を捕まえてカメラを持ってきてもらう。 「じゃあ、お願いします」 ぴぃーすっ パシャ ![]() (後で樹生くんにも焼きまわししてあげなくちゃ) やっぱり天然なみるだった。 |
後日… |